酵素や微生物を利用した 有用物質の生産と環境保全技術の開発

 生物は酵素を使って様々な物質をとても効率良く作り出しています。この生物のすばらしい機能を利用して、食品や医薬、化学産業で必要な有用物質を省エネルギーで環境にやさしい方法で生産する技術の開発を行っています。また、微生物の機能を利用した環境保全技術の開発にも取り組んでいます。

 下記に、当研究室で取り組んでいる研究課題の例を紹介します。

酵素を利用した生理活性オリゴ糖の生産

 生物から分離・精製した酵素は一般的に不安定であり、また高価なため工業規模で物質の生産に利用されている例はそれほど多くありません。そこで、酵素を有用物質の生産に利用するため、ゲルなどの不溶性担体に固定化して利用する手法の開発を行っています(図1)。固定化により、酵素を長期間安定に使うことができるようになります。

 本研究室では、産業廃棄物であるカニやエビの殻から抗腫瘍性や免疫増強作用のあるキトサンオリゴ糖を生産することができる酵素キトサナーゼの固定化方法を開発しました(図2)。この固定化キトサナーゼを利用したバイオリアクターを開発し、キトサンオリゴ糖の収率を飛躍的に高めると共に、1ヶ月以上の長期間にわたってキトサンオリゴ糖を連続的に生産できるようになりました。さらに、種々の機能性オリゴ糖を固定化酵素を利用して生産する研究開発も進めています。

水環境の修復のための藻類死滅機構の解明

 近年、生活廃水などが流入し富栄養化した湖沼で、有毒藻類の発生が観察されています。有毒藻類であるアオコは、青酸カリより強力な毒素を作り出すため、湖沼の水が飲料水として使用できなくなるなど、水資源の危機が懸念されています。アオコなどの有毒藻類を殺藻し、湖沼から除去することが一つの解決法ですが、藻類の生死判別の基準やその有効な判別法が確立されていません。

 そこで本研究室では、蛍光染色法を原理とした生死判別法を開発しました。この方法により、アオコの生死を顕微鏡下で簡単に判別することができるようになりました(図3)。現在、この手法を用いてアオコの死滅機構の解明を進めると共に、これを富栄養化湖沼の藻類の増減モニターとして応用するための研究開発を進めています。これにより、湖沼など水資源の適切な管理と安全な利用が実現できると期待されます。

図3 蛍光染色法による藻類の生死判別

分子の自己組織化を利用したナノバイオリアクターの開発

 生物は、酵素により様々な物質を作り出したり、エネルギーを生み出したりしています。その精密な機構は、数多くの分子が関与することで成り立っており、これらの分子が協調してはじめて多様で機能的なシステムとなります。この生物の効率的なバイオ変換システムを倣って、物質生産やエネルギー変換を効率的に行うシステムの開発を行っています。

 ある種の脂質分子が自己組織化すると、nmからμmサイズの微小な水相を内包した脂質ベシクルと呼ばれる閉鎖小胞を形成します。この脂質ベシクルを、擬似的な細胞モデルとして捉えて、これをベースに酵素による変換システムを構築し、生体類似の精緻な機能を有したナノバイオリアクターの開発を行っています(図4)。これにより、複数の酵素が関与した複雑な物質変換が実現できると期待されます。また、生体内で機能的に働くナノキャリアーやナノリアクターとして医薬・食品産業への応用も期待されています。